神戸地方裁判所 昭和23年(行)28号 判決 1948年12月27日
原告
喜多しん
被告
兵庫県農地委員会
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
請求の趣旨
被告は、原告所有の兵庫県揖保郡龍野町富永字樋詰四〇三番一反五畝十八歩同所字野々神三七九番田一反七畝二十一歩同字三八四田二反一畝十八歩に対する農地買収計画を改めこれを買収しないと変更せよ訴訟費用は被告の負担とする。
事実
原告は、その請求原因として
兵庫県揖保郡小宅村農地委員会は原告所有の農地六筆((一)兵庫県揖保郡小宅村富永樋詰四〇三番田一反五畝十八歩(二)同所字野々神三八二番田一反二畝二歩(三)同字三七九番田一反九畝二十一歩(四)同字三八四番田二反一畝十八歩(五)同字三八五番田一反四畝九歩(六)同字三七三番ノ一田一反三畝十六歩)を原告が居住する市町村の区域外で所有する小作地として政府が買収する計画を定めた旨昭和二十三年一月八日原告に通知して来たので原告はこれに異議を申立てたが採用されずさらに被告委員会に訴願したが被告委員会は同年三月一日前記買収計画を承認し原告の訴願棄却の裁決をし同年五月十二日原告は裁定書の送達を受けた然し原告は兵庫県揖保郡龍野町龍野タ百九十番ノ一に居住し前記農地は一応原告の住所なる龍野町の区域外で原告の所有する小作地と見られないでもないのではあるが原告の住所と右農地との距離は僅か三四丁に過ぎずこれは実質的には住所市町村の区域外に所有するものではないと見るべきものであるのみならず原告住所地の龍野町と右農地所在地の小宅村とは昭和二十二年九月頃合併の覚書が交換されており昭和二十三年四月一日に小宅村は龍野町に合併されるに至つたのであるから右農地はここに原告の住所のある龍野町区域内に包含されることとなつたのである従つて右農地を原告の住所市町村区域外の小作地として買収すべきものとした農地買収計画は違法なものでありこれに対し上述の理由をもつてその変更を求めた原告の訴願を棄却した被告の裁決処分もまた違法といわねばならない故に原告は被告に対し請求の趣旨記載の三筆の農地につきこれを買収すべきものとした買収計画の変更を求めるため本訴に及んだものである。
被告は主文と同じ判決を求め答弁として原告の主張事実は全部認めるがその主張の事実から本件農地買収計画の樹立その承認或は原告の訴願棄却の裁決処分が違法であると決論されるものでないすなわち本件農地買収計画の樹立乃至承認当時本件農地はその所有者である原告の住所のある龍野町の区域外である小宅村に属していたものであるから自作農創設特別措置法第三条第一項第一号所定の農地に該当するものとして買収すべき旨決定したのは当然である。その後の同年四月一日に至つて右両町村が合併され右農地が原告の住所のある龍野町の区域内に含まれることとなつたからといつて前記買収計画書が違法なるものとなるものでないのみならず合併と同時に従前の龍野町及び小宅村の各行政区域内につきそれぞれの地区農地委員会が設置され自作農創設特別措置法第三条第一項の適用について右両地区は別箇の市町村と同視され(同法第四十八條)本件農地は原告の住所区域外に存する農地として扱われることは合併前と変らない以上のように原告が本件農地買収計画を違法であるとしてその変更を求めるのは失当であるから原告の請求を棄却されないと述べた。
理由
原告の主張する事実の存在することについては当事者間に争がないのであるから右事実に基く原告の主張が正しいか否かについて、判断する原告は原告主張の小作地は小宅村にあり原告の住所のある龍野町は区域外であるとはいい僅か三四丁しか離れていないのであるから自作農創設特別措置法第三条第一項第一号の適用と同一市町村の区域内にあるものと同視するのが同法の精神に合致した処置であるというが市町村農地委員会が同条同号かつこ内による隣接市町村の区域内の地域を当該市町村の区域に準ずるものとする指定は隣接市町村の一部が地理的社会的経済的に近密でこれを当該市町村の一部とみるのが妥当と考えられるような特殊な事情がある場合にその地域につき包括的になされるものであつて個々の地主の一々の農地につきなされるものではないし又その指定これに対する同意又は承認の当否の判断は行政庁たる農地委員会が独自の意見に基きなすべきところでかかる取扱をせぬからといつてその指定をすべき事情が余程高度顕著でそれが当否の判断を容れる余地がないためその指定をせぬことが直ちに違法と認められるような特別の場合でない限りその取扱を違法として右取扱の取消又は変更を裁判所に訴求することは許されないと解すべきであるし本件買収農地の属する地域がかかる特別な場合に当ることを肯定すべき主張も立証もないのであるからその点からは原告の主張は容れるに由がない又もし右かつこ内の規定によらず単に原告が主張するような一事から一つの市町村の地域を他市町村の地域と同視すべきものとすれば買収の対象となるべき農地の決定の基準を徒に煩雑不明確なものとし右の規定が市町村の区域を以て農地買収の地域的基準とする旨明記し我国現下の緊急課題である農地改革を急速かつ公正に実施するため制定された自作農創設特別措置法の精神を無にする結果を来すものであつて、正しい解釈とはいい難く原告の右主張はこれを認めることができない。次に原告はその住所のある龍野町と前記農地のある小宅村とは昭和二十三年四月一日合併され一の龍野町の区域を作るに至つたから本件農地は自作農創設特別措置法第三条第一項第一号の規定に該当する農地ではなく従つてこれを買収すべきものとしたのは違法であると主張するが右両町村が合併されたのは本件農地買収計画が樹立承認された後のことで右各処分当時には別個の町村であつたのであるから前記条文の規定によりこれを買収すべきものとしたのは適法な処分であり後に生じたかかる事情の変化によつて当初適法であつた右処分が違法なものとなる理由なく、これに対する訴願を棄却した本件裁決もまた適法なものであり、以上の行政処分はいずれもこれを違法として変更されるべき点がない結局原告の本訴請求は原告独自の見解に基いて被告の処分を違法と主張するに過ぎず全くその理由がないことは以上述べたところにより明かであるからこれを棄却し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。
(石井 西川 細見)